認知症の人とともに

〜【2】 渡邉光子理事長が語る、これからの認知症のこと〜



日本認知症コミュニケーション協議会に関わる方々のメッセージを綴る特集。
初回は当協議会の渡邉光子理事長に認知症の人との関わり方などを伺います。


誰もが「認知症」という病気を知る時代

— 家族としてどのように関わればいいのでしょうか。


認知症の人を抱える家族の方は、家族が認知症の初期ではないかと、うすうす気づいていても「夫が認知症なんて認めたくない」「しっかりしている親なので、そんなはずはない」など心理的に受け入れがたい状況に陥るために悩みます。

ですが、悩んでいるのは認知症の人を抱える家族や周囲の人だけではなく、認知症の人自身もまた、自分自身の変化に深く悩み不安をもっているのです。

今から20年前になりますが、私の実母が認知症になり徘徊や物とられ妄想などを発症したわけですが、家族全員が認知症について知識も症状の理解も対応の仕方も無知な状態で4年間過ごし亡くなりました。現在のような知識や対応の仕方を心得ていれば、もっともっとやさしくできたのに、と今でも思い出すことがあります。

基本的な知識があることで手遅れにならないで進行を抑えられることが出来ます。知識や早期発見の仕方を知ることで認知症が進むことを防ぐことができ、お互いにやさしい気持ちで接することが本人の不安を少なくし、おだやかな日々を過ごすことができるようになります。しかし、発症から落ち着くまでに約3ヵ月から1年ぐらいはかかると言われていますので根気よく本人の気持ちに沿ってサポートするようにしたいものです。

「認知症」の人との接し方とは

— 困った行動を始めたら、どう接したらよいのでしょうか?


渡邉まずは、認知症の人(親)本人が何をしたいのか、気持ちを読み取り、見守りながら、コミュニケーションをとることで改善策が見えてきます。

例えば、若いころの仕事の話を何度もくりかえしするような時は「ずいぶん忙しい仕事だったのね」と話を合わせる。夕方、家に帰りたいと出かけようとしたら「お茶を一杯飲んでからにしたら」と話題を変える。夜中に起こされるようなことがあった時は、「背中をさすってあげるから休んで」と静かに背中をさすりながら1日の出来事を話してみる。ぬるめのお風呂に入る。ラベンダーなど好きな匂いのするアロマを枕元に置く、しずかに好きだった音楽のCDを流すなど工夫することにより改善する人もいます。このように対応の仕方で進行を押えたり、生活改善に繋がることも多々あります。

当時、母が深夜に起き出してくることがありました。周辺症状でいう「不眠」です。その時私は、母が好きだった賛美歌を一緒に歌うことがありました。そうすると母の気持ちが落ち着き、再び眠ることができました。今考えると、好きな音楽を用いたアクティビティ・ケアを行っていたのだな、と思い出します。


— 認知症の人を介護する人、介護される人との関係についてはどうお考えですか?


渡邉認知症の人と一緒に生活するなかでお互いが相手の考えや言いたいことなど心のすれ違いが生じるとお互いにストレスが大きくなります。ましてや介護する人(家族)が認知症について正しく理解していない場合には、さらにストレスは増大していきます。そうすると感情的になりお互いが大きな声を出し暴言や暴力さらには虐待へとエスカレートしていきます。

お互いのストレスが、相手のストレスをさらに大きくしてしまいます。介護する人が穏やかな気持ちで関われば、介護される方も穏やかな気持ちになります。そのためには、介護する人の立場を理解するとともに、介護する人のケアも必要になるのです。


— でも認知症の家族と接するとき、どうしても感情的になってしまうこともありませんか?


渡邉そうですね。認知症の知識を身につけていたとしても、身近な家族などの場合、過去の普通に過ごしていた元気な姿が記憶として残っており、無意識にその当時の姿と比べてしまいます。認知症について理解していなければ、なおさら感情的にきつい対応をしてしまい、その後自らの行為を後悔し自分を責めてしまいます。負の連鎖です。同時に、認知症の人も「周囲に迷惑をかけてしまう」という自責の念を持ってしまい鬱病を発症してしまうケースもあります。

— そのときはどうしたらよいのでしょうか

渡邉出来るだけ早い時点で専門医の診断を受け、認知症である事実を受け入れ、容認するとともに、本人の認知症という病気や症状について、家族が共通認識を持つことが大切です。それには、本人がどのような暮らしを望んでいたか、どう生きたいと願っていたか、本人の生きてきた人生を振り返り話し合いをするなどです。

前も言いましたが、出来るだけ早い時点で専門医の診断を受け、認知症である事実を受け入れ、容認するとともに、本人の認知症という病気や症状について、家族が共通認識を持つことが大切です。それには、本人がどのような暮らしを望んでいたか、どう生きたいと願っていたか、本人の生きてきた人生を振り返り話し合いをするなどです。

また、どのように関わることで本人らしい暮らしができるようにサポートできるのか考えてみましょう。意外に自分の親の若いころのこと、どんな趣味を持っていたのか、どんなことが好きだったのかなど知らないことが多いです。本人の興味のあるものを引き出す「回想法」ですが、そこからアクティビティ・ケアに繋げていくこともひとつの方法です。

家族だけで抱えるのではなく、介護職の方、子どもたち、兄妹、地域の人たちの協力を得ることです。また、介護保険制度を活用してディサービスやショ―トステイなど活用することで、家族の生活も守らなければなりません。例えばディサービスなど福祉サービスを利用することで、あらたな友達ができたり、楽しい時間を過ごすなど、在宅だけにいるよりも心身共に活性化することができます。

「認知症」の人と、認知症の人を抱える家族や周囲の人との橋渡し役として

渡邉認知症の人と認知症の人を抱える家族などのコミュニケーションの橋渡し役として、「認知症ライフパートナー」が活躍できるのではないか、とも考えています。

認知症の人には、その人の言葉にならない思いなどを理解し、思いをくみ取り接する。 認知症の人を抱えるご家族などには、認知症という病気についてわかりやすく説明する。家族が抱える悩みを共有し、接し方をアドバイスする。福祉サービスを有効に活用する方法を伝えるなどの役割も、「認知症ライフパートナー」ならできると思います。

認知症の症状について誰もが正しく理解をしていることが最も大切なことです。認知症を必要以上に怖がることなく、正しい知識をもち一人の人間として尊厳をもって、穏やかに、やさしく接することで、認知症の人も周りの人たちも落ち着いた生活ができるようになると思います。

認知症ケアは長期戦になります。家族が疲れすぎないように介護する側も健康に気をつけ、周囲の助けを求めることも大切です。



渡邉 光子(わたなべ みつこ)

一般社団法人 日本認知症コミュニケーション協議会 理事長
NPO法人 福祉・住環境人材開発センター 理事長
株式会社エスシーアイ 会長
東京都社会福祉審議会 審議委員
東京商工会議所 女性会 顧問
福祉住環境コーディネーター協会 理事 など